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執筆者の写真shotaroyahagi

「普通においしい」が求められる時代にー世の食いしん坊たちにおくる、食の楽しみ方提案ー

更新日:2018年10月15日


第3回

dancyu編集長 植野広生氏


サントリートレンド編集部LIGHTHOUSEの雑誌編集長から見た「ミレニアル世代」。第3回のゲストは、「dancyu」編集長の植野広生氏にインタビューを実施。

「ミレニアル世代にとって“食べる”とは?」をテーマに、食の本質を捉え、時流に流されない美味しいお店の選び方を提案するdancyuならではの視点で語っていただきました。


dancyuは「食いしん坊のために食いしん坊が作る」雑誌

ー(LIGHTHOUSE編集部)サントリートレンド編集部LIGHTHOUSE、

第3回のゲストはプレジデント社『dancyu』編集長の植野さんです。

宜しくお願いします!


植野広生氏(以下植野):

2017年4月よりdancyuの編集長をしている植野です。宜しくお願いします。


ー編集の際に意識されていることはありますか。


植野:

「食いしん坊が喜んでくれるか」、この一点だけですね。 dancyuはグルメ雑誌じゃないんです。食いしん坊のために食いしん坊が作る雑誌なんですよ。“食いしん坊”っていうのは、3万円のフレンチも300円の立ち食い蕎麦も同じように楽しめる人です。


ーなるほど・・・「食いしん坊」たちの意識を昔と比較すると、変化したところはありますか。


植野:

dancyu創刊の1990年は「男子も厨房に入ろう」をタイトルにするくらい、

男性は料理を作らなかったし、食知識もあまりなかった。今はみんな食へのリテラシーが

すごく高い。そんな中でdancyuは、「ただ沢山の店を食べまわっているだけの人にはできない提案」をしていきたいです。

単なるお店の情報の紹介ではなく食の楽しみ方の提案をしたい。

こんな楽しみ方があるんだよって。僕はdancyuに人格を持たせようと思っているんです。提案をするからには、意思と思想を持つべきだから。


ーdancyuでしかできない提案。では、テーマが決まったらどのように特集を考えていくのですか。


植野:

たとえば最新号のカレーなら、まずカレーに関する情報を調べて、リスト化する。

情報をどういう構成で見せるか考えたり、今のトレンドを探ったり。今はスパイスカレーが広がっているからお店でバリエーションを表現しよう、とかね。お店を載せるときは必ずスタッフがお店に行きます。読者の食いしん坊の代わりに行くってことなので、客として普通に飲み食いします。もちろんdancyuとは名乗らず。


「お客さん」ではなく濃い「ファン」を作る

植野:

餃子の時は3軒紹介するのに108軒回ったんですよ。そうすると説得力が違いますよね。

やり過ぎでもいい、むしろ雑誌らしいアホらしさっていうのを大事にしたいです。

雑誌を読んで「アホか!ここまでする!?」と言われたいですし、餃子のルーツを知って「へえ〜知らなかった」と思ってほしい。

「アホか!」と「へえ〜!」が共存しているのが雑誌のいいところですよね。


ー確かに。デジタルの媒体だったら難しいですね。dancyuのメインターゲットの年齢って規定しているのでしょうか。


植野:

営業的には「40代男性」などの読者設定も必要ですが、編集的には性別年齢でターゲットを考えることはしません。読者ターゲットとして想定しているのは「食のアクティブ層」。食の情報に触れていいと思ったら、行ったり買ったりして、ちゃんと行動する人って意味です。ファッション誌だったら絶対年代で分けると思うけど、食のアクティブ層は性別や年代にかかわらず、ある塊が存在するのです。テーマの設定次第なんですよ。たとえば、日本酒特集ってめちゃめちゃ売れるんです。アクティブ層がかなり広い範囲に存在しているから。


ー号のテーマによって読者の年齢層が随分変わりそうですね。

植野:

そうですね。あと羊の特集のとき、「羊に興味がある人」ではなく「羊好き」に特化して作ったんですよ。かつてない反響がありましたね。編集部に感想のメールが沢山届きました。その号の部数はあまり伸びませんでしたけど(笑) こういうテーマやターゲットを絞った特集をやることによって絶対ファンってつくと思うんです。ただのお客さんじゃなくて、ファンが。“お客さん”は試合が勝ったら帰るけど、“ファン”は最後のヒーローインタビューまでしっかり見てくれる。深度の深い特集は年に2回くらいやりたいですね。


ー毎月のテーマはどのように決められるのでしょうか。


植野:

僕が編集長になってからは、だいたい僕が決めることが多いですね。数ヶ月分まとめて作っちゃうんです。もちろん変えることもありますけど。


ー植野さん自身はどのようにテーマをしぼるのでしょうか。


植野:

そのとき、自分が何を食べたいかですね。食材の旬やお店の旬と同じように、“食いしん坊の旬”というのもあるんです。社会情勢的な。株でいうとサイコロジカルラインみたいな。


ー食いしん坊のサイコロジカルライン。面白いですね。自分の勘がズレていないか、確認することは可能なのでしょうか。


植野:

毎日外食をして、お店でどういう人がどうやって食を楽しんでいるのか観察することですかね。


結局、「普遍的にいいもの」に人は戻る

ーでは今の時代、どんなことが食に求められているのでしょうか。


植野:

「普通に美味しい」ことですね。「普通に美味しい」ってすごいことなんですよ。

たとえば、東京のイタリアンってすごく美味しい。美味しさが鋭角的なんです。

対してイタリアの街場の食堂で食べるパスタはアルデンテでもない。でも、次の日も同じものを食べたくなる。東京のイタリアンみたいな美味しさは、美味しければ美味しいほど、2、3ヶ月はもういいかなってなる。

僕はイタリアで食べるパスタのようなものを紹介したいですね。

数値化できない、ランキングにできないもの。もっとアナログなもの。


ー普通に美味しいもの・・・難しいですね。


植野:

バブルの頃は、20代で毎日銀座で飲んでました。先輩たちにお酒の飲み方も、銀座の店のヒエラルキーも教わったんです。ここまでのお店は今行けるけど、これより上の店は行けないなーとか。でもバブルの後リーマンショックもあって、今の時代はヒエラルキーが断絶している。あと部下に教えられる上司が減ってるから食べ方の作法や接待などに関して、世代の継続性がないですよね。


ー上の世代の方々に食の楽しみ方を教えてもらう機会が減ってきている、と。


植野:

はい。あと今はデコラティブなお店や予約が全然取れないお店に対して、それを追っていた客たちに疲れが出てきてますよね。昔ながらのいい店に、食いしん坊たちが戻ってきている気がします。あのお店やっぱりよかったよねって集まるんです。それを若い子に教えると、「こんなお店あったんですね」と、逆に新鮮味を覚えてくれる。

昨年のフレンチ特集号でも、今時のフレンチ特集の中にあえて昔からの店を出したんです。そしたらそこが上の世代にも若い世代にもウケたんです。結局、普遍的なものに人は戻るなと思いましたね。


ー原点回帰のような。

植野:

そうですね。たとえば、基本ができていない料理人が、今流行のノルディックフレンチの石の皿の右端だけに料理を並べるようなスタイルだけを真似しても、本物の美味しさは出ないはず。10年後にその料理の写真を見たら、バブル期の肩パットが入った洋服を今見るような恥ずかしい感じになると思いますよ。一つのトレンドでしかないかな、と思います。

dancyuではトレンドではなく、「ほんもの」の紹介をしたいですね。どの世代でも、

いいものはいいなって気づいてくれますから。


ー本日はありがとうございました!


植野:

こちらこそ、ありがとうございました。



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