第5回
PRESIDENT編集長
鈴木勝彦
第4回のゲストは、プレジデント社「PRESIDENT」編集長鈴木氏に
インタビューを実施。
「現代における“学び”とは?」をテーマに、学びのあり方やモチベーションの
保ち方など、編集長の熱い想いを
おうかがいできました。
毒にも薬にもならないテーマは選ばない。自分にどれだけ正直に向かえるかが勝負。
ー(LIGHTHOUSE編集部)サントリートレンド編集部LIGHTHOUSE、
第5回のゲストはプレジデント社『PRESIDENT』編集長の鈴木さんです。
宜しくお願いします!
鈴木氏(以下鈴木):
「PRESIDENT」の編集長をしている鈴木です。宜しくお願いします。
ー編集の際に意識されていることはありますか。
鈴木:
PRESIDENTは、1980年代にヒットした歴史特集のイメージが強かったのですが、2000年に月2回刊にリニューアルしたときに「ビジネスマン個人の悩み、
“半径5m“の関心事に応える」という方針に変わりました。
以来、どうすれば個人の心の内に入れるか、考え続けてまいりました。
その方法としては、できるだけ多くのビジネスマンに本音を聞いて
テーマを見つけていくというのがオーソドックスかもしれませんが、
私はそれに加えて「自分は何が読みたいか」を突き詰める形で企画を立てています。
特集企画は目次のかたちで立案していまして、いわば仮の目次なのですが、
雑誌の設計図と言えます。編集長一人でそれを書いています。
ー全部一人で書かれるのですね。
鈴木:
複数の記事で構成する特集企画の立案にあたっては、
編集部員それぞれに自由にやらせると、似た企画ばかりが並ぶ可能性があるので、
特集全体がバラエティに富むように私が調整しています。特集テーマが読者の支持を
得られるかどうかの決め手は、企画を立てる際にどれだけ自分に正直に向き合えるかに
かかっています。自分の関心を掘っていけば、地下水脈の深いところで他者と
つながっているという井戸掘り理論があります。
どれだけ深く自分を掘り下げられるかが勝負ですが、下手にかっこつけますと、
他者とつながりません。 雑誌は読者がわかっていることを特集しても意味がありません。知的な刺激がないと振り向いてもらえない。
毒にも薬にもならないようなものはやりません。
ーなるほど。その中で、特に反響の大きかったものはありますか。
鈴木:
老後に関する特集は読者が多いですね。「金持ち老後、貧乏老後」という特集は
人気で毎年組んでいます。昨年3月に組んだ特集「日本人の給料・年金・貯金」も
多くの方に読んでいただきました。「日本人の」という言葉をつけたのは、
読者が日本全体の中で自分は一体相対的にどの辺りの位置にいるか、
確認したいのではないかと考えたからです。確認できれば、その後は、
自分にどんな課題があるのか、今後どうしたらいいのか、展望が開けてきます。
ひと口に老後と言っても色々な特集展開が可能です。
ーメイン読者層としてはどのような人たちでしょうか?
鈴木:
読者の年代は編集長である私の年代に近いですね。40~50代のビジネスマン。
数年前と比べて読者の平均年齢が少し上がった感じはします。
また中小企業の経営者の方も多く、会社で購読してくれている方もいます。
読者の共通点としては、真面目で向上心をもっていて、いい仕事がしたい、
自分で自分の人生をマネジメントしたい、と強い意志をもっている人たちです。
この乱世で大事なのは問いを設定し考え抜く力
ーこの10,20年で、“学び”のあり方って変わっていますか。
鈴木:
(2018/1/24読売新聞の記事を見せて)これを読んで、ハッとしたんですね。
現代は“乱世”だと。これからは経営者も若者も360度、
あらゆる方向に好奇心を持つことがすごく大事なのだ、と。
次のビジネスを考えるにあたって今までの延長で考えていては時代に取り残されます。
では、どうすればいいのか。若者も私たちの世代も「自分で考えて動く」以外ないんです。
「賢者は歴史に学ぶ」と言いますが、この時代、歴史を振り返っても
なかなか未来が読めません。
新技術が突然出てくる、マーケット環境があっという間に変わる、乱世です。
「答えがない」時代ですから、自分で考えて答えを出すしかありません。
ーたしかに。でも「自分で考えて決める」って難しいですね。
鈴木:
私たち日本人は、答えがない勉強法を教わっていないんです。会議やセミナーの場で、
質問を求めれられると、シーンと静まり返る。まず周りはどうするか様子を伺った後に、
自分の行動を決める傾向がありますでしょう。しかし周りの様子を伺っても
答えはないんです。これから求められるスキルは、課題を設定する力で、どう考え、
どう仕事をし、どう生きるかを自分で決めて、
さらに仮説を検証して修正できる力が必要です。
ー答のある学びというよりは、問いを設定する力をつけるために学ぶんですよね。
鈴木:
学ぶべきは哲学です。自分自身に問いかけ、考えて、人に語る。
いろんな情報や過去の成功パターンにただ乗っかるのではなく、
間違っているのではないか?と一度疑ってみる。そして自分は何がしたいか、
どうすべきか繰り返し考えることが大事になってくると思います。
ーどうすれば、自分で深く考えられるようになるのでしょうか。
鈴木:
一つは、
どんどん人と会話することでしょう。
まず考えていることを相手にぶつけて、
相手の意見が返ってきたら、
そこでまた自分の考えをひねり出す。
へえーそうなんだと受け流すだけでは、自分の思考はストップしてしまう。
あとは、小さなことでもいいから一歩踏み出すこと。
何か実行してみないと、成功か失敗してみないと、次の景色が見えてこない。
今見えている景色の中でゴールを探すというより、
左に一歩踏み出して考えてみて、次の歩むべき方向を決めていくという感じです。
ーこの乱世の中で、PRESIDENTが「学び」にどう貢献できるとお考えですか。
鈴木:
読者が求めているのはノウハウではなくリテラシーなんですね。
たとえば「株式投資100万円の儲け方」より「1億稼ぐ生き方」の特集の方が
支持される傾向にあります。読者の方々は具体的なノウハウより、事に臨む姿勢や、
何か“気づき”を求めているんだろうなと感じます。
これからの人生の課題解決の指針を得たいのだと思っています。
ー乱世であればあるほど、そういう姿勢みたいなものが求められますよね。
鈴木:
はい。正解は一つではないので、PRESIDENTには、
いろんなお考えをもった方々の言葉を一冊に集約しています。
その中でいいと思ったものだけを読者の方々に持ち帰ってもらいたいと思います。
「意思のある出会い」とそこで得た言葉は、一生残る。
ーモチベーションの保ち方については、何か読者にアドバイスできることはありますか。
鈴木:
個人的な話ですけど、若い頃に異業種交流会のような場に積極的に顔を出していましたが、
自分にはあまり役に立ちませんでした。
目的意識が希薄だったからではないかと思っています。
しかし、自分が話を聴きたいと思ってようやく会えた人の言葉って、一生残るんです。
会うのが難しそうな人でも、案外、手紙一つで扉が開きます。
大企業の経営トップにインタビューすると、自分の発想を変えるきっかけ、
考えを深めるきっかけとして「人との出会い」を 挙げる方がすごく多い。
勉強というのはそういうものの積み重ね
ではないでしょうか。そして出会いは、
自分の意思でつくるものだと思います。
ー自分の経験を振り返っても、
やっと会えた人の言葉や雰囲気ってたしかにずっと覚えてますね・・・。
本日は本当にありがとうございました!
鈴木:
ありがとうございました!
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