第2回取材
ダ・ヴィンチ編集長 関口靖彦氏

サントリートレンド編集部LIGHTHOUSEの雑誌編集長から見た「ミレニアル世代」。第2回のゲストは、「ダ・ヴィンチ」編集長の関口靖彦氏にインタビューを実施。
「ミレニアル世代にとって“遊び”とは?」をテーマに、アニメや漫画など、コンテンツと長年向き合ってきたダ・ヴィンチならではの視点で語っていただきました。
作家起点のヒットが生まれない時代
ー(LIGHTHOUSE編集部)サントリートレンド編集部LIGHTHOUSE。
第2回のゲストはKADOKAWA『ダ・ヴィンチ』編集長の関口さんです。宜しくお願いします!
関口靖彦氏(以下関口):
2011年よりダ・ヴィンチの編集長をしている関口です。宜しくお願いします。
ーダ・ヴィンチといえば、小説や漫画、アニメなど広くコンテンツを扱う雑誌というイメージです。
関口:
そうですね、「本とコミックの情報誌」ということでやってきましたが、扱うジャンルもだいぶ広がってきたように思います。BLや百合、2.5次元など本のジャンルも広がり、アニメ・ゲーム・映画といったコンテンツも近年は大きく扱います。
ー特集やテーマを決める際に、意識されていることはありますか。

関口:
昔はよく作家ベースの特集をやっていたのですが、最近はあまり扱わなくなりました。
代わりに増えたのがタイトルの特集ですね。「進撃の巨人」とか「おそ松さん」とか。
ー確かに作家よりもタイトルの特集が増えていますね。
関口:
昔と違っていまは、作家名によるヒットが生まれづらくなっています。
たとえミリオンヒットが出たとしても、同じ作家の別タイトルが売れるとは限らない。
むしろ一つの作品がヒットすると、そのメディアミックスばかりが飛ぶように売れる、という現象がよくみられます。「おそ松さん」なんかはその典型ですよね。
「おそ松さん」がヒットしても、赤塚不二夫の本が売れるわけではない。
「おそ松さん」ばかりがアニメ・グッズ・書籍…とカタチを変えてヒットし続ける。
ーなぜタイトルによる消費がメインになったのでしょうか。
関口:
ベースとして、コンテンツの展開形式としての「メディアミックス」の普及が挙げられます。書店の店頭もそうなっていて、ヒット作の原作・映像ソフト・関連書がずらりと並んでいますね。
Facebookで論評する昭和のオタクとLINEでシェアして楽しむ平成のオタク
関口:
あとはオタクのあり方がミレニアル世代はだいぶ変化しましたよね。
昭和のオタクは探求者で、ジャンルを問わず知らないものを知ろうとする欲求が強かった。だから、ダ・ヴィンチを含めて雑誌は「情報源」だったわけです。この作家の作品が面白かった、だから他の知らない作品も見てみよう…
こうして知識を深めては、ブログとかに長い批評を載せたりする。なんとなく、40代以上がFacebookとかで映画や本のレビューをしている投稿をよく見ませんか?(笑)
ー確かに、よく見る気がします…(笑)
関口:
生の感想ではなくレビューを書くのは、彼らが雑誌のレビューを読んできたから。
雑誌のレビューでは未知の作品を知ることに価値があり、だから今は自分がレビューを書いて不特定多数の人に価値を伝えたいのです。
ーでは、平成のオタクのコンテンツ消費とは?
関口:
ミレニアル世代にとってオタクであることは、スタイルや哲学ではなく、一つのコミュニケーション手段なのだと思います。仲間とつながるための手段ですね。
好きな作品について、身近な仲間たちと一緒にその愛を語り合う…
上の世代がFacebookの公開投稿なら、こちらはLINEのグループでしょうか。
ー知らないものを求めるよりも、知っているものを愛でる。確かにLINEグループでのコミュニケーションに似ています。

関口:
ダ・ヴィンチも、あるテーマに沿って複数の作品を並べる特集は売れにくくなりました。自分の知っている作品を徹底的に愛でたいから、一つのタイトルを掘り下げる特集が求められます。
ーなぜこのような変化が生まれているのでしょう。
関口:
背景には2つ要因があると思います。一つは「供給過多」です。日々溢れるほどのコンテンツが世の中に出てきており、もはや全て追うことは不可能です。
昭和のアニメオタクは、タイトル数も限られていますから、ある程度アニメ全体を語れたかもしれない。でも、テレビの地上波以外のメディアでも新タイトルが次々更新されるいま、過去の名作から新作まで全てのアニメを語ることはもはや誰にもできない。
全てを追えないからこそ、自分の好きなタイトルだけにこだわるわけです。
ーコンテンツの洪水に疲れた結果、好きなタイトルだけに閉じこもるのですね。
関口:
もう一つは「仲間になるハードルの低下」。SNSの発達により、同じものが好きなオタクの仲間を探すハードルが、明らかに下がりました。
ハッシュタグで探せば、地球の裏側のオタク仲間を簡単に見つけられる時代ですからね。
世代も地域も関係ない。この2つの要因が重なり、好きなタイトルだけを愛でるコミュニティが生まれやすくなったと私は考えています。
正しさよりも、居心地の良さを
ーミレニアル世代の「遊び」がテーマの今回。ミレニアル世代にヒットするコンテンツについても伺いたいです。
関口:
ミレニアル世代を中心に、近年ヒットするコンテンツには共通する特徴があります。
それはメジャー感とマイナー感を兼ね備えていることです。
ー作品でいうと、どのようなものが当てはまりますか。
関口:
象徴的なのは「シン・ゴジラ」と「君の名は。」。マンガで言えば「進撃の巨人」なども当てはまるのではないでしょうか。

ーメジャー感とマイナー感とは、どのような意味でしょうか。
関口:
メジャー感は「共有しやすさ」です。設定が説明しやすくキャッチーで、誰にでも共感しやすい作品であること。それに対してマイナー感とは「掘り下げがいがあること」。
ただ表面的なエンタメとしての楽しさだけでなく、思わず掘り下げたくなるような背景など、「語れる」要素がしっかりと含まれていること。
「シン・ゴジラ」も怪獣映画として充分に共有しやすいメジャーさと、過去の映画への膨大なオマージュというマイナー感をどちらも持っていますよね。
「君の名は。」も、背後にある震災以後の日本人の意識についてなど、ただの恋愛物語以上に語れる深みを備えています。
ー確かに、玄人好みのポップな作品が増えているように思います。
関口:
ダ・ヴィンチの特集も、そうしたヒット作品の「背景を掘り下げる」特集が増えています。ファンが語りたくなるような、タイトルの持つ深みを丁寧に紐解く特集が求められているのです。
ーミレニアル世代と向き合う上で、意識すべきことは何でしょうか。
関口:
権威的な押し付けがましさを出さず、同じ目線に立つことが何よりも大切だと思います。
例えば先ほどの、タイトルの背景を掘り下げる特集の時も、「こう考えるべき」といった正しさの押し売りにならないようにすることを我々も心がけています。
ダ・ヴィンチで最近増えている「ファン座談会」が人気なのもそのような理由からでしょう。
ー座談会、ですか?
関口:
そう、ファンの方々による座談会形式の記事です。
昔は著名人や学者など、権威ある人があるタイトルを勧める、といった内容の記事も多かったですが、今はたとえ無名であっても「ガチファン」が座談会をしている様子が、支持を集めるのです。
ミレニアル世代が求めているのはきっと、「正しさ」よりも「居心地の良さ」。
彼らのコミュニティを乱す上から目線の「正しさ」は、たとえ正しくても受け付けられない。彼らが気持ち良く「それいいね!」と仲間同士で言い合えるような、居心地の良さが今後のコミュニケーションでは必要条件となるでしょう。
ーコンテンツ消費もコミュニケーションも、すべてが縦型から横型へと変化しているのですね。今日は面白いお話をありがとうございました!
関口:
ありがとうございました。

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