第13回取材
週刊プレイボーイ編集長 松丸淳生氏
19年最初のLIGHTHOUSEは、週プレ編集長・松丸氏を取材。
テーマは、30−40代の男性の心をつかむコンテンツ。
週プレ酒場、DVDふろく、キン肉マン…コンテンツで常に時代を刺激しつづける週刊プレイボーイ。
アイドルのグラビアから硬派な社会問題まで、幅広い射程で現代を撃ちぬく週プレをつくりあげる「編集哲学」とは?
30-40代の抱える「うすぼんやりとした」不安とハッピー
ー(LIGHTHOUSE編集部)サントリートレンド編集部LIGHTHOUSE、
19年最初のゲストは集英社『週刊プレイボーイ』編集長の松丸さんです。
宜しくお願いします!
松丸氏(以下、松丸):宜しくお願いします。
ー週刊プレの読者は30-40代がメインと聞きました。どんな方が多いのでしょうか。
松丸:同年代の読者が多いSPA!さんが首都圏型なのに対し、週プレの読者は全国の人口分布にほぼ比例しているので、郊外や地方にお住まいの30-40代も多いです。
だから郊外チェーン店に関する企画は必ずアンケート上位にきますし、地方に行くと、
地域密着企業の“二代目”の読者にもよく会います。
「うちには重機が○台あります。職場に週プレあると従業員も読みます」みたいな(笑)
ーターゲットとしての現代の30-40代男性に、特有のインサイトなどはありますか。
松丸:いまの30-40代の気持ちを表現するときに僕がよく使う言葉が「うすぼんやり不安」と「うすぼんやりハッピー」。
毎日けっこう楽しいし、直近で強い不安があるわけではないんだけど、ぼんやりと閉塞感はある。
ー週プレをつくるうえで、こうしたインサイトを意識されることはありますか。
松丸:逆に将来不安を煽るだけの記事や、読者が自分事に思えない成功譚は基本的に入れません。30-40代向けの雑誌ではロスジェネの絶望みたいな記事をよく載せますが、
週プレが大事にしたいのは「身の丈の幸せ」です。
ただ、30-40代という世代を意識しすぎないようにも注意しています。
ーなぜでしょうか?
松丸:30-40代って、会社でも家庭でも、責任あるけど自分で全部を決められるわけでもない、「人生の中間管理職」的な世代で、その内面を、今みたいな時代にストレートに記事にすると、すごく世知辛くなっちゃう。
だからそこは前提にしつつも、「週プレを読んでいるときは自分の年齢忘れちゃうようなページにしてね」と、現場スタッフには常に言っています。
理想としては、出張先の東横インに夜チェックインする前に、1階のコンビニでチューハイと週プレを買って、部屋でほっと一息ついてほしい(笑)。
今のケースは実際に読者から聞いた「身の丈ハッピー感」の一例ですが。
グラビアの表紙は、“景気イイ感じ”を大切に
ー週プレといえば、表紙のグラビアが毎回話題になりますね。どうやって編集されているのでしょうか。
松丸:週プレの読者は「現役世代」ですが、僕らが皆さんに提供したいのは「成功」より
「幸福」です。
グラビアにおいても、以前はもっとウェットで陰のある、エロティックな表紙も多かったのですが、僕が編集長になって「景気イイ感じ」に変えました。
それはバブルっぽいという意味ではなくて。
ーたしかに、最近の週プレの表紙には、どこか明るい雰囲気を感じます。
松丸:もちろん、例の「コンビニ成人誌問題」な風潮も意識しますが、何よりも、「この雑誌を手に取るとちょっとハッピーになれますよ」というメッセージを、まず表紙で伝えたい。最新号の宇垣美里さんや、GWの池田エライザさんの表紙も、景気イイ感じがしたから多くの皆様の手にとっていただけかなと。
ー「景気イイ感じ」は、なぜ求められるのでしょうか。
松丸:ざっくり言うと、僕らも皆さんも毎日けっこう世知辛いからだと思うんですが(笑)。
そこはそんなに難しい話でもなくて、例えば「飲み姿が可愛い」と話題の高田秋さんが表紙の号も話題になって、彼女が五島列島で地酒を飲んでるDVD付録も大好評だったのですが、「可愛い子が楽しく酔ってる姿を見たらちょっと幸せ」って、すごくシンプルな感覚じゃないかなと(笑)。
こちらの「見下し」に気づかないほど、いまの読者はバカじゃない
ー週プレを編集するうえで、編集哲学などはあるのでしょうか。
松丸:哲学というか、前提として、今の雑誌において大事なのは「コンサルティング」ではなく「コーチング」だと思っています。
昔の雑誌って、どこか先生っぽく、昔の週プレだと「アニキ」っぽく、上から目線で「大切なことを教えてやる」的な姿勢でやってきました。
でも、いまの読者は「見下し」に対して敏感です。
少しでもこちらがそう思っていると、すぐに見抜かれてしまう。
だから「何かを教える」というより「この問題、こう考えたほうが面白くない?」という感じですね。
ー雑誌に限らず、コンテンツ全体に当てはまることかもしれませんね。
松丸:その時大事なのは、作り手も本気で面白がっている姿勢です。
リリー・フランキーさんの人生相談もユーモアと包容力で相談者の悩みを面白がっているから、読者も共感できるんだと思います。
面白がるっていうのは、気持ちが外に向かうということ。
グラビアも、政治や社会の問題も、気持ちを外に向けてもらうという意味では同じです。
思春期の頃って、女の子のことと社会のことが両方、気になり始めるじゃないですか。
きっと人間の心ってそういう風にできているんですよ。だから週プレを読むと外に目が向いて、なんだか「見晴らしがよくなった気持ち」になってほしいです。
ー確かに、週プレは時折ものすごく硬派な内容を取り扱っていますよね。普段週プレを読んでいない、特に女性の方からすると意外に思われる方も多いのではないでしょうか。
松丸:最近は毎週のように「老後2000万円不足」問題を扱っていますが、内容としてはかなりハードかつ難しい内容です。
でも、読者が興味をもってさえすれば、ハードな内容でも面白がってくれます。
逆にそこでわかり易くしようとしすぎると、それこそ「見下し」感がつきまとっちゃう。
それよりも、作り手が本気で面白がって作ったコンテンツのほうが、よっぽど受け入れられやすい時代だと思います。
ノスタルジーよりも、いま目の前で「動いているもの」を面白がれ
ー雑誌として、挑戦していきたいことはありますか。
松丸:さっき思春期のときは目線が外に向かうって話をしましたが、こういうのを僕は「発達心理学的編集術」と勝手に呼んでいまして(笑)
例えば、赤ん坊が視力を持ち始めると、まず眼の前で「動いているもの」を目で追いますよね。つまり、人間は動いているものを目で追うように生き物としてできている。
だから雑誌も、常に「動いているもの」を取り上げるのが一番大切で、企画を考えるときも、切り口に迷ったら、「そのテーマに関して、動いている場所はどこだろう?」というところからスタートします。
ー外側にあって動き回るから、面白いと感じるのですね。
松丸:一方で、単なる「ノスタルジー」は最近はあまり扱わないようにしているんです。
ーノスタルジックな特集は、30-40代向けメディアでの定番コンテンツであるような印象もありますが。
松丸:たとえば週プレではキン肉マンの連載があって、今年で連載40周年です。
でも懐かしさではなく、「今が一番おもしろい」と言われるほど現在進行形のコンテンツなんですね。キン肉マンも動き続けているからこそ、今の週プレの雰囲気に合うコンテンツになっている。
もちろん過去を振り返る記事もやりますが、それは必ず、現在をもっと面白がるためのものでありたい。
動いているという意味では、付録としてDVDをつける試みを続けていますが、映像や電子書籍とのクロスメディア要素は、今後さらに進化させていきたいです。
ー今後の週プレの目標はありますか。
松丸:「動いているもの」の話を載せるだけでなく、クロスメディア要素も加えて雑誌そのものをもっともっと動かして、お客さんが目で追うような存在になりたいです。
僕ら自身もいっそう「動体視力」を鍛える必要があります。
ー本日はありがとうございました!
松丸:ありがとうございました。
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