第14回取材
週刊ヤングジャンプ編集長
板谷 智崇氏
サントリートレンド編集部LIGHTHOUSE、
19年最初のテーマは、30-40代男性の心を掴むコンテンツ、「週刊ヤングジャンプ」編集長、板谷氏にインタビューを実施。
編集方針や表紙づくりの戦略から、大人たちに愛される青年漫画のエッセンスのお話までをお伺いすることができました。
編集方針は雑食性。どんなことも面白がれる姿勢を大切にしたい。
ー(LIGHTHOUSE編集部)サントリートレンド編集部LIGHTHOUSE、
今回のゲストは集英社『ヤングジャンプ』編集長の板谷さんです。宜しくお願いします!
板谷氏(以下板谷):宜しくお願いします。
ーはじめに、ヤングジャンプの雑誌としての編集方針やこだわりを教えてください。
板谷:少年ジャンプのカウンター、大人版として1979年に創刊されました。
青年誌特有のバイオレンスやセクシュアルなものなど、少年誌ではできないようなものはもちろん、面白いものは何でも載せる方針ですね。雑食性を大事にしてます。
そういう、懐の深さみたいなものが特徴でしょうか。
ー表紙にも色んな人が出ていますよね。
板谷:表紙も、なんでもありですね。
マンガだけでなく、女の子や話題の人を起用しています。
過去にはフィルコリンズや土井たか子さんなども出ています。
コンビニで目につくかどうか、反応してくれるようなコアファンがいるかどうかを意識しています。そのタイミングに合わせて新連載を始めたりもしますね。
たとえば2009年のAKB48が出たときは部数が伸びました。
それからは、声優やコスプレイヤーなどを起用して新規ユーザーの獲得を狙ったり。
読者の6割以上が5年以上読んでくれている人なので、適宜若返りを図ったりもしています。様々な人を表紙にするのは、親和性が高そうな新たな読者を掘り出す実験でもあるんです。
ニーズを探し当てるのは、現場編集者の意思と嗅覚。
ー青年コミック誌として、昔に比べて読者のインサイトに変化はありますか。
板谷:今は趣味・嗜好が細分化してるし、リテラシーもある。
漫画のテーマや設定もすごく細かくなっているんですよ。
単なる恋愛ものよりも少しニッチなものがウケることも多くて、例えば「可愛そうにね、
元気くん」みたいな倒錯した恋愛・欲望を描くのが意外と人気出るんです。
ー細分化した中で読者のツボを見つけるのは難しそうですが、どんな方法で掘り出すのでしょうか。
板谷:こういうジャンルやストーリーがウケる!という法則みたいなものはないので、
漫画家さんと現場担当者のアイディア次第です。
たとえば「これからは妹だ!」って主張した編集者は、「干物妹!うまるちゃん」を立ち上げてくれました。
漫画編集者は独立した個人商店みたいなものなので、基本は現場に任せています。
各編集者が、どこまで漫画家さんの長所を引き出せるかも大事ですね。
今は漫画飽和の時代です。紙でも電子でも読めますし、ニッチなジャンルですら多様化している。みんなどの漫画を読めばいいのか分からなくなっています。
だからこそ今のコミック誌は、キュレーション的な役割が大きいのだと思います。
あの頃憧れていた人生を思い出すような、アツ苦しい漫画。
ー青年漫画ならではの魅力や読者の心を動かす秘訣があれば教えてください。
板谷:まず、大人が読んでも耐えうる設定であること。
少年漫画だと剣とか魔法とかが出てきて、かなりハイファンタジーな世界が多い。
ヤングジャンプではもう少し現実的に、地に足のついた設定が多いですね。
加えて、大人の知識欲を満たしてあげるのも重要です。読者自身にとって新しいテーマで、読み応えのある内容であること。
ーたしかに少年誌よりリアリティがあるといいますか、現実世界に近いですね。
板谷:ただ一方で、最近の漫画から抜けてきている「夢」とか「情熱」みたいなエッセンスも、あえて今の時代だから込めるようにしています。
ヤンジャンには、これを持っている作品が多いと思います。実際に売れ行きを見ても、その要素が詰まった漫画は伸びています。
ーそうなんですか!いわゆる少年漫画の王道系ですね。
板谷:そう。
実は青年コミックって、大人たちに「憧れていた人生を疑似体験させてあげる」こともできるんですよ。「ああ、俺ってこういうことやりたかったよな」という気持ちを思い出させてあげるというか。
大人になって社会に出ると、疲弊するし忙しい。
自分が生きてる意味とか目標にしていたものとか忘れちゃうんです。
将来はこういう大人になりたい、こういう生活したいって気持ちがあったはずなのに。
漫画を読むことで、そんな置いてけぼりになった昔の夢たちを思い出せるんですよね。
ー憧れていた人生の疑似体験……たしかに大人になると目の前の現実しか見えなくなりますね。
板谷:「キングダム」の映画が大ヒットした要因の一つには、映画にも「夢」について語るクライマックスがあったからだと思います。
「ゴールデンカムイ」なんかまさに今の青年誌を体現してますよね。設定が新鮮で知識欲を満たせて、一人のヒーローが大目標に向かって成長していく、っていう。
ーこれからヤングジャンプが目指したい方向性など、もしありましたら教えてください。
板谷:“雑食性”は大事にしながら、もっとアツ苦しい情熱系漫画を増やしていきたいですね。
ー登場人物に自分を投影できたり、胸が熱くなったりする漫画は私たちのような大人にも響きますよね。 本日は本当にありがとうございました!
板谷:ありがとうございました!
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