第1回取材
DIME編集長 安田典人氏
LIGHTHOUSEの雑誌編集長から見た
「ミレニアル世代」。記念すべき第1回は、言わずと知れた小学館の発行するトレンドマガジン「DIME」編集長の安田典人氏にインタビューを実施。
「ミレニアル世代にとって“買う”とは?」をテーマに、ガジェットを得意とするDIMEならではの視点で語っていただきました。
「編集者は、まず人と会え」
ー(LIGHTHOUSE編集部)サントリートレンド編集部LIGHTHOUSE、記念すべき第1回のゲストは小学館・DIME編集長の安田さんです。
安田典人氏(以下安田):
宜しくお願いします。
ー初めに、簡単にご自身とDIMEの紹介をしていただけますか。
安田:
DIMEはガジェットなどを中心に広く
トレンドを扱う雑誌で、読者層は平均で40代です。@DIMEというWEBサイトもやっており、そちらの読者は少し若めですね。僕自身はもともとラジオ局で働いていたのですが、転職して出版業界に入り今はDIMEの編集長を務めています。
ー今回の企画自体が、そもそも雑誌の持つ情報「編集」力に着目し、これまでにない視点でミレニアル世代のマーケティングを切り開くことを目標に始まりました。安田さんの考える「雑誌の持つ情報編集力」とはなんでしょうか。
安田:
情報収集に関してはそこまで特別なことをしているつもりはありません。
本屋・TV・ラジオネット…様々な情報に敏感であることは、もちろん心がけていますが。ただ、雑誌編集者の基本は「人に会う」ことだと考えているので、若い編集者にはよく「仕事ばっかしていないで、なるべく違う業種・業界の人と飲みに行け!」と言っています。
僕自身、中目黒の飲み屋で一人で飲んでいた時に、御社の人とたまたま隣になったこともありますよ(笑)。
ーDIMEの毎号のテーマ決めなどはどうやっているのですか。
安田:
全ての編集者が一堂に会して自由にネタを持ち寄って、みんなで話しながら決めます。
「なんでもいいから出せ!」といった感じ(笑)。
世代を超えて自由に議論しながら、最終的には僕が判断した上で決定します。
コスパ意識とモノへの憧れ
ーさて、今回のテーマは「ミレニアル世代×買う」です。
ご自身の日々の生活の中でミレニアル世代を意識することはありますか。
安田:
実はうちの編集部の一番若手の2人がどちらも30代前半の「ミレニアル世代」なんです。
2人ともとても優秀で、エースだと思っています。彼らを見ていると、自分とはやはり価値観が異なる「ミレニアル世代」なのかな、と感じます。
ーどんなところから感じるのでしょう。
安田:
発想が自由でアクティブで、チャレンジングなプランもすぐに行動に移してしまうところ。
あとはデジタルネイティブで、好きなことに徹底的にこだわる姿勢もですね。
ーミレニアル世代の「買う」行動について、どのようにお考えですか。
安田:
これは僕自身がDIMEというモノを中心に扱う雑誌を作っているからかもしれませんが…
彼らは強烈な「コスパ」意識を持っていると強く感じます。
おそらく、不景気など親世代の苦労を目の当たりにしてきたからこそ、そうやって賢く成長したのでしょうね。
ーミレニアル世代は、どういった点が「賢い」のですか。
安田:
まず圧倒的な情報収集能力の高さですね。自分の気になるモノはよく調べますよ、彼らは。あとは「所有」を「負担」と捉える感性とか…モノを所有しての優越感よりも、長い目で見たときに不便さを考えてしまうのでしょう。モノに縛られるのを嫌う傾向もある。
ーそうした点を意識して誌面を組むことなどはあるのでしょうか。
安田:
最近では誌面によく「100選」のように数字を強調して載せるようにしています。
彼らはコスパは意識するのですが、あまり直接的に「コスパ」を意識させる文言は嫌います。直接的なコスパはカッコ悪い。
だから、例えば「100選」のように数字を活用してみると、賢い選択=良コスパであることを自然と感じられるのでしょう。
ーコスパ意識の高いミレニアル世代にとって、買いたいモノとはどんなものなのでしょう。
安田:
ミレニアル世代にとっての買いたいモノは「ツールとしてのモノ」と「憧れとしてのモノ」の2種類に分かれると思います。
ツールとしてのモノは、役割のはっきりした役立つ道具としてのモノ。憧れとしてのモノは、それを持っている自分を想像して思わず嬉しくなってしまうようなモノです。
ー所有が負担なミレニアル世代でも、そのような「憧れ」があるのでしょうか。
安田:
それはむしろ、メディア側がそのような努力を怠っている部分もあるのではないですか。DIMEでは必ず「憧れ」を与えるようなページを入れるようにしています。
「憧れ」は、若い世代にとってある種の「気づき」です。
ハッとするような、驚きをもたらす「遊び」があることが大切ですね。小山薫堂さんのコラムなどはまさにそうした遊び心に満ちた、憧れを生み出すものだと思います。
顔をさらけ出す「中のヒト」が信頼される時代
ーミレニアル世代の「買う」を考える時、私たちが意識すべき点は何でしょうか。
安田:
それは「中のヒト」が常に顔を出すようにすることです。
ーどういった意味ですか。
安田:
メディアや売り手が、自ら顔を出して自分をネタにして素をさらけ出すことです。
ミレニアル世代の信頼を獲得するには、それしかないと思う。
ー具体的な例などありましたら教えてください。
安田:
例えばDIMEではよく、編集者やライターが顔と名前を明かして家電のレビューをすることがあります。顔出しを嫌うライターの方などもいらっしゃいますが、顔を出して公平なレビューができる書き手と、それができる雑誌しか信頼されない。
こうしたレビューは当然メーカーさんの目に入ることも想定していますが、あえて配慮なくやっています。不公平をなくすために、全部自腹で家電を買ってレビューしたこともある(笑)。逆に、とあるメーカーさんの家電を低く評価したレビューを載せた時、そのメーカーさんから真摯な手紙が来て。
「他にもっといい製品もあるので、是非そちらも見て欲しい!」と。
そのご縁から、次の号でそのメーカーさんの特集を組むことになりました。
「顔を出す」姿勢は、ミレニアル世代だけでなくメーカー・メディアにとってもメリットがあると感じています。
ー情報発信サイドが「顔を出す」べきであると。
安田:
企業のTwitterアカウントの「中のヒト」の感覚に近いですよね。
自己をあえて表に出して自らネタを作る姿勢は、ミレニアル世代から評価されやすいと思います。これは、私たち雑誌の価値を高めることにもつながると思っています。
ただ扇情的な記事で煽るだけのWEBと違って、雑誌の持つ大きな力のひとつは「信頼」です。編集者やライターの顔が見える雑誌は、その価値をもっと強めることができる。
ー冒頭の「とにかく人と会って話す」姿勢にも通じる部分がありますね。
安田:
そうかもしれません。信頼を獲得することはそう簡単なことではないとは思いますが、まずはこちらの顔をしっかり見せること、だと思います。
先日日清食品の安藤社長にインタビューしたのですが、彼は食品事業はファンマーケティングへとシフトすべきと語っておられました。私も雑誌こそファンマーケティングへもっとシフトすべきだと考えています。ファンを獲得するには、まずはこちら側が積極的に顔を出して彼らと向き合うことが大切でしょう。
ー最後に、今後のミレニアルズ・マーケティングに携わるであろうサントリーの皆さんに向けて一言、お願いします。
安田:
現代はミレニアル世代固有の価値観が、どんどん普遍的になりつつあると思います。だからこそ、若い世代を否定しないことを強く意識すべきです。
みなさんが思っているよりも、彼らはずっと賢い上、とっても真面目です。少なくとも僕ら以上の世代が若かった時よりずっと真面目(笑)。彼らを否定することなく、まずは“顔”を見せてみてはいかがでしょうか。
ーなるほど。今日はありがとうございました!
安田:
ありがとうございました。今度、ぜひ飲みに行きましょう!
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