
第5回
FRaU編集長
関 龍彦氏
サントリートレンド編集部LIGHTHOUSE、今回のテーマは
「学ぶ」。第4回のゲストは知性あふれる女性誌「FRaU」編集長である関氏に
インタビューを実施。
「学びたくなるコンテンツとは?」
をテーマに始まったインタビューは、
編集の力を雑誌以外の領域へ
開いていく、関編集長の編集哲学が
伝わってくる話となりました。
編集体制を毎回変える「ひとりFRaU」状態
ー(LIGHTHOUSE編集部)サントリートレンド編集部LIGHTHOUSE、
第5回のゲストは講談社『FRaU』編集長の関さんです。宜しくお願いします!
関氏(以下関):
宜しくお願いします。
ーFRaUといえば、毎号テーマが変わるワンテーママガジンですよね。
どんな風に編集をされているのか気になります。
関:
現在FRaUは月刊から「適時刊行」というスタイルへ移行しました。
基本的にはクライアントからの依頼があったうえでテーマを決めて刊行する、
いわばマーケット・インなやり方ですね。
ー具体的にはどのようなプロセスで誌面を作られているのでしょう。
関:
いまは号ごとに制作のチームを変えるという特殊な体制をとっています。
講談社内には固定の編集部員がおらず、たとえば最新号である「山陰特集」は
TRANZITの編集チームと一緒に作りました。編集長以外毎回変わる、
いわば「ひとりFRaU」状態ですね笑。
苦労もありますが、刺激的な雑誌づくりができていると自負しています。
ーテーマ自体はクライアントが決めているのでしょうか。
関:
いえ、クライアントからのお題に対して、FRaUの雑誌としてのトーンと、
読者のニーズとの3者のバランスを考えて決めています。
たとえば「ニッポンの夢旅」という特集号は、かんぽ生命さんがクライアントで
「夢」をテーマに組み込んでほしいという依頼でした。
そこで読者のニーズとFRaUが得意とする領域である「旅」を組み合わせて「夢旅」という
テーマになりました。
ー読者はどんな方が多いのですか。
関:
世代としては30代後半の女性がコアですが、
年齢というよりはONEテーマが好きな、オタク気質というか、
知識の掘り下げが好きな方がやはり多い印象ですね。
テーマの縛りが、雑誌を面白くする
ー毎号のテーマを決めるうえで心がけていることはありますか。
関:
ワンテーママガジンなので、ルーティンで買ってもらえるファッション誌や
ビューティー誌と違って毎号のインパクトが大事だと考えています。
固定読者に刺さればよい、ということではなくテーマごとに異なるタイプの読者を
想定しなければならないですし…。逆にいうと、テーマの縛りがあるからこそ思い切って
内容をとがらせることができる。実際、いまの出版業界の状況を考えると、
クライアントからのお題をもとにしたワンテーママガジンは、
最小限のリスクで良質なコンテンツを世の中に出していく手段だと思います。
ー学びたくなる、知りたくなるコンテンツをつくるコツは何でしょうか。
関:
やはり学びたくなるテーマとか、
知りたくなるコンテンツはネタ自体よりもその中身の充実にあると思います。
FRaUなら、どんなテーマがきてもそれをうまく「料理」することができる。
特に記事ひとつがSNSで拡散されることで新しい読者が獲得できるかもしれない
時代ですし、一つひとつの記事の内容の充実には力を注いでいます。

ー「料理」の仕方を具体的に教えて
ください。
関:
そうですね…たとえばハワイや京都など、他の雑誌でも特集しうる、
ある種普遍的なテーマだった場合、
ナチュラルなおしゃれさやインテリ
ジェンスを感じる、少し「玄人っぽい」
コンテンツにするよう心がけています。
最新号の山陰特集もあえてそういうトーンで作ることができて、自分でも読んでみて
「FRaUっぽいな」と感じました笑
「生活の楽しみ」と「ひとさじの毒」が知りたくなる特集をつくる
ー次号のテーマが「SDGs」特集とのことですが、
なぜいまこのテーマを選ばれたのですか。
関:
まず、うちが日本で一番最初に一冊まるごとSDGsを特集した女性誌になりたかった笑。
先程申し上げた通り、普段はクライアント一社とのコラボレーションによる適時刊行を
主としていますが、この号は私の想いから企画が始まり、
複数クライアントと合同でつくる初めての試みとなっています。
ー編集長の強い想いから始まる企画もあるのですね。
関:
社会として、
いま「やらなければならない」テーマがときに存在すると考えているためです。
3.11のあと、日本に多くの義援金を集めてくれた台湾への感謝を込めた特集
『ありがとう、台湾!』のときもそう。
日本人観光客がFRaUを丸めてもって台湾を歩いていると「台湾、ありがとう!」の
メッセージがみえるデザインになっていました。あの号には思い入れがありますね。
ー社会的なテーマを取り扱うことに対する抵抗はないのでしょうか。
関:
女性誌としてエッジが効いていることがFRaUの強みでもあるので…
ただ、あくまで「オピニオン」ではなく「ライフスタイル」として提案することは
常に心がけています。
どれほど社会的なテーマであっても「生活の楽しみ」に落ちていないと、
それは読者が読むにたえるコンテンツになっていない。自分の生活に関わる、
自分の生活の喜びに貢献する内容だからこそ、読者は学びたくなるし、知りたくなる。
あくまでライフスタイルの提案であり続けることが大事です。
あと、昔ある先輩に言われたことなのですが、
雑誌の誌面には「ひとさじの毒」を入れることが重要だと思っています。
ーひとさじの毒、ですか?
関:
つまりちょっとした「ひっかかり」ですね。ありきたりな内容を書いても
誰も見向きもしてくれない。とくにSNS含めていくらでも情報が溢れている
今はより一層その傾向が強いでしょう。
だからすこしだけ刺激的な内容=毒を入れることが大切です。
編集のちからを開くことが、マーケティングを変える
ー関編集長は雑誌編集以外の領域まで積極的に活動を広げられていますね。
関:
もともとVOCEの編集長時代に Panasonicさんと共同でBeauTV~VOCEという
TV番組の立ち上げに関わるなど、雑誌を活用した新規事業の開発に携わることが
これまでも多かったですね。
僕の中でのメディアのイメージは、雑誌単体が存在するのではなく、
雑誌を中心にいろんなメディアがサテライト状に存在している感じなんです。
だから雑誌だけにとどまらない。
いまもFRaU編集長として活動しながら、BE-BANKという美容領域のエキスパートを
集めた美容コンサルティングの会社を立ち上げ・運営しています。
商品開発などいくつかの依頼をいただいており、
その他個人でもブランディングなどのお仕事を頂いている状況です。
いかなるテーマをも料理できるという「編集」のちからは、雑誌だけでなく様々な
マーケティングにもっと活用されていくべきだと思います。

ー今後に向けた展望があれば教えて
ください。
関:
僕はもともと、女性向けマーケティング
を女性だけができるわけではないと思っているんです笑。
むしろ僕らのような男性が積極的に
入ることで、女性マーケティングは
変わっていくと思う。
だからこそ、さらに色んな領域に編集の
力をもって参加していきたいですね。
ー本日はありがとうございました!
関:
ありがとうございました。

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