
第6回
リンネル編集長
西山千香子氏
サントリートレンド編集LIGHTHOUSE、
今回のテーマは「暮らす」。
インタビューのラストを飾るのは、
あの「リンネル」の編集長の西山氏。
その穏やかな雰囲気からは想像もつかないほど、熱気を帯びた語り口で語る、西山編集長の描く、雑誌の未来とは?
「普通」「等身大」は困難な時代に生きる女性が見つけ出した価値
ー(LIGHTHOUSE編集部)サントリートレンド編集部LIGHTHOUSE、
第6回、最後のゲストは宝島社『リンネル』編集長の西山さんです。宜しくお願いします!
西山氏(以下西山):宜しくお願いします。
ーはじめに、『リンネル』の、雑誌としての編集方針やこだわりを教えてください。
西山:
リンネルはムックから数えると、10年ほど発行しているライフスタイルマガジンです。
「ていねいに、心地よく暮らす」をテーマに編集をしています。
編集方針としては、ライフスタイル誌として、単なるモノの情報ではなく、ヒトベースでの情報発信を心がけています。
あと、情報の数やデザインを「ひかえめ」にするようにしていますね。
情報「量」よりも、「質」を重視しているというのもありますが、
やはり雑誌のテーマとしてハレよりも、ケを重視したいので、読んでいて疲れない雑誌にしたいという思いがあります。
白っぽいデザインが多く、また、言葉もあまり強いものは使えないので、書店での目立ち度でいうと歯がゆい部分でもあるのですが。笑
ー『リンネル』といえば、やはりていねいな暮らし、とくに「北欧特集」のイメージが
あります。
西山:
確かに、北欧特集は人気ですね。年1回は必ず出す定番の特集です。
でも、北欧特集への需要も、昔は家具などモノが中心だったのが、
いまは、教育や考え方を含めた、(北欧の)生活全体が憧れの対象となってきている印象です。
ーリンネルファンは、どんな方が多いですか。
西山:
いまは、30代半ばくらいの女性が多い印象です。
最初は、かなりニッチな雑誌という認識でしたけれど。
「ていねいな暮らし」に似た需要は、10年前くらいからロハスなど様々な形式で存在はしていましたが、食/住まわりがほとんどでした。
そんな中で、ファッションも含めて、新しいこうした価値観のニーズを満たす雑誌をつくれないか?という思いからできたのが、『リンネル』です。
ーリンネルに代表される「ていねいな暮らし」需要はどうして存在しつづけるのでしょうか。
西山:
30代の女性は、やはり仕事も家庭も大変で、自分を見失いがちな年代です。
そんな彼女たちの「癒やされたい」需要が「ていねいな暮らし」需要を生んだのでしょう。「普通」や「等身大」に“心地よさ”という価値を最初に見出したのは、彼女たちだと思います。
「ていねいな暮らし」とおだやかな向上心
ーそうした安心や癒しを満たすのが「ていねいな暮らし」なのですね。
西山:
でも、一方で「ていねいな暮らし」という価値観の中には、おだやかな向上心が潜んでいると私は思っています。
ていねいに暮らすには、生活を少しづつアップデートしていく必要がありますし…
見た目がおだやかなだけで、実はけっこうアクティブなんですよ。
ーていねいな暮らし がアクティブとは、意外な印象です。

西山:
たとえば、『リンネル』だと「すてきな大人の女性になるには」といった、少し啓蒙的な特集も反響があります。内容でいうと、向田邦子さんやジェーン・バーキンさんのような方々をよく扱います。確かに、困難な時代なので、安心や癒しがベースにないと、頑張れない時代。でも逆にいえば、その「癒し」と「がんばり」の両者は、バランスをとって共存できるのです。
ー癒しと向上心が共存する時代なのですね。
西山:
少しずつ自分や、自分の暮らしを変えていきたいという向上心ですよね。ていねいな暮らしのニーズの中には、こうしたおだやかな向上心が含まれています。
リンネルは「読者モデル」がいない雑誌
ー『リンネル』は表紙にでてくる方が幅広いですよね。有村架純さんから原田知世さんまで…
西山:
そうですね、先程30代女性といいましたが、『リンネル』はターゲットのデモグラが、かなり幅広いんです。子供のあり/なしや、有職かどうかも半々くらいですし…
やはり年代ではなく、趣向でつながる雑誌なので、そこはいつも注意しています。
たとえば雑誌でよく使う「●●ママ」みたいな表現を使わないとか。
ーなぜ『リンネル』はそのように幅広い年齢層から支持されるのでしょう?
西山:
好きなものが似ているひと同士のほうが、つながりやすいからですかね。
個人的にですが、最近年の離れた友人をつくることが増えてきました。
女性のほうが、そうした年齢を超えた「趣向でつながる」ことが、時代として当たり前になりつつあるのかもしれません。
ーデモグラよりも趣向でファンを捉えているのですね。
西山:
年齢から開放されているほうが、ずっと雑誌として愛してもらえるんですよ。
リンネルには、他の雑誌とちがって読者モデルを最初からおいていません。
それも、年齢という制限を、読者に対してかけたくないからです。
親子で読者の方もいますし、私自身も定年退職した後もずっとリンネルを読み続けたいと思っています。
「常時接続」の時代に雑誌ができること
ー今後のリンネルのビジョンはどんなものなのでしょう。
西山:
「おしゃれな暮らし」のイメージだけなら、SNSでいくらでも探せる時代になったことは、やはり意識しますね。本当に、プロと見紛うような写真を載せている方もたくさんいますし... 雑誌として、そういう時代に何ができるのかを常々考えています。
ー『リンネル』としてだけでなく、雑誌としてSNS時代に提供できることを考えていらっしゃるのですね。
西山:
わたしがいま個人的に考えていることは、この「常時接続」の時代に、雑誌が提供できる価値についてです。
ここに何かを提供できる可能性がある、と感じています。
ー常時接続、ですか?
西山:
いつでもネットの世界に繋がりつづけ、情報が大量に入ってくる、
ある意味で新しい”ON”の状態ですよね。これまでOFFだった時間もONに変わっていく。
雑誌は、そこに「ひとりで静かに自分と向き合う時間」を提供できるのかな。
常時接続に対する、適正ゾーンを提案していくのではないか、と考えています。
ー時代に対して、常に提案していく姿勢なのですね。
西山:
やはり『リンネル』は、読者に「考える材料」を届け続けたいんですね。
すてきな「おとなの女性」とは、おしゃれで、丁寧で、知的な女性だと思うので。
自分の頭で考えて、自分で答えを出す。そんな女性が、やはり理想の
「すてきなおとなの女性」ですよね。
ーそこに編集長の明確な意思を感じます。

西山:
わたしが、オリーブやananで育ってきた、という過去があるからかもしれない笑。
当時のananは、自分のあたまで考えることを若い女性に啓蒙しましたよね。
スタイルは全く違うけれど、リンネルもそういう部分を持っていたいと思っています。
ー本日はありがとうございました!
西山:ありがとうございました。

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